同じ「WebCM 1本」でも、見積もりは50万円から1,000万円まで開きます。この差が何なのかを、発注を受ける側から書きます。結論から言うと、予算で変わるのは画の綺麗さではありません。動かせる要素の数です。
本記事の金額は、FILMOQの制作実績()と、公開されている業界資料をもとにした目安です。実際の見積もりは尺・撮影日数・キャスティング・納品本数で変動します。各社の料金は必ず最新の見積もりでご確認ください。
この記事を書いた人
早坂 亮輔(はやざか りょうすけ)映画監督/CMディレクター・FILMOQ株式会社 代表取締役
東京藝術大学大学院 映像研究科 映画専攻 監督領域修了。映画監督・黒沢清に師事。Sony・Google・Honda・Canon・ASICS・放送大学などのTVCM・WebCMを中心に演出。「映像作家100人」選出。長編映画『4/猫』(東京テアトル配給)で商業デビュー、監督作『The Unluckiest Girl in the World』がレインダンス映画祭 長編コンペティション部門に選出。この記事は、いまもCMの現場に立っている監督が、発注する側の視点で書いています。
- 予算別・早見表
- 50万円:いまあるものを、うまく撮る
- 150万円:1日のロケ撮影と、演出が入る
- 300万円:選択肢が2つ以上になる
- 500万円:「作る」ができるようになる
- 1,000万円〜:主役がタレントと媒体になる
- 予算別・どこに頼むべきか
- 予算を増やさずにクオリティを上げる5つの方法
- ここを削ると、必ず失敗する3つ
- 媒体費は別枠。テレビに流す場合の実額
- よくある質問
1. 予算別・早見表
まず全体像です。表の「動かせるもの」が、その予算で初めて選択肢に入る要素を指します。
| 予算(制作費) | 撮影 | 出演 | 動かせるもの | 主な用途 |
|---|---|---|---|---|
| 50万円 | 半日〜1日/スタジオまたは既存ロケーション | モデル1〜2名または社員 | 構成・編集・音楽 | SNS動画、商品紹介、既存素材の再編集 |
| 150万円 | 1日/ロケ撮影可 | 役者2〜4名 | + 演出・照明設計・ロケーション選択 | WebCM、採用動画、ブランドムービー |
| 300万円 | 1〜2日/複数ロケーション | 役者4〜8名 | + 美術の一部造作・特殊機材・2案比較 | TVCM(15秒)、本格WebCM、縦型ドラマ複数話 |
| 500万円 | 2〜3日/セット可 | 準主役級のキャスティング | + セット建て込み・オリジナル楽曲・CG | TVCM(15秒+30秒)、シリーズ展開 |
| 1,000万円〜 | 3日以上/海外・大規模ロケ | 知名度のあるタレント | + タレント契約・大規模美術・長期プリプロ | ナショナルクライアントのキャンペーン |
制作費のみ。テレビの放映料(媒体費)は含みません。媒体費は第10章で扱います。
この表でいちばん見てほしいのは、「動かせるもの」の列が積み上がっていることです。予算が増えると画が綺麗になるのではなく、選べる手が増えます。50万円の現場でも画は綺麗になります。ただし手が1本しかないので、狙いが外れたときに直せません。
制作費の内訳:どこにお金が動くのか
予算の総額だけを見ても判断できません。内訳のどこが膨らんでいるかで、その見積もりが何にお金を使う計画なのかが分かります。
| 費目 | 目安 | ここが膨らむとき |
|---|---|---|
| 企画・構成 | 10万〜35万円 | 複数案の提出、絵コンテの枚数、リサーチが必要な案件 |
| 撮影 | 10万〜80万円 | 撮影日数、スタッフ人数、特殊機材、ロケーション使用料 |
| 編集・MA | 15万〜40万円 | 納品本数、カラーグレーディング、ナレーション収録 |
| BGM制作 | 30万〜100万円 | オリジナル楽曲を作る場合。ライブラリ音源なら数千円〜 |
| キャスティング・出演 | 数十万円〜数千万円 | 知名度、契約期間、使用媒体の範囲 |
出典:動画幹事。FILMOQの実績と照らしても、おおむねこのレンジに収まります。
見積もりを受け取ったら、まずこの5行に分けてもらってください。総額だけの見積もりは比較できません。そして総額が同じでも、企画費が厚い見積もりと撮影費が厚い見積もりでは、出来上がるものが全く違います。
2. 50万円:いまあるものを、うまく撮る
この予算帯は「作らない」のが原則です。存在しないものを用意しようとした瞬間に、50万円は破綻します。
できること
- 半日〜1日の撮影(スタジオ、オフィス、既存の店舗・工場など)
- 商品や人物を、光と構図で見せる
- 既存の写真・映像素材を使った再編集
- ライブラリ音源、モーショングラフィックス
- 15〜30秒を1本、縦型・横型の2フォーマット納品
できないこと
- 美術を建てる(背景を作る)
- ロケーションを探して押さえる(ロケハン・使用料が予算を超える)
- 役者を複数名キャスティングして芝居をつける
- 撮り直し
50万円でいちばん効くのは「場所を1つに絞ること」です。移動が入った瞬間に撮影時間が半分になります。この予算帯では、時間そのものが最大のコストです。
3. 150万円:1日のロケ撮影と、演出が入る
ここから「演出」が予算に乗ります。50万円との差は機材ではありません。プリプロ(事前準備)に何日かけられるかです。
50万円の案件では、企画を決めてすぐ撮ります。150万円になると、絵コンテを描き、ロケハンに行き、照明のプランを立て、本番前にテストができます。現場で起きることの8割は、この準備で決まります。
できるようになること
- 1日のロケ撮影(屋外・実在の店舗・住宅など)
- 役者2〜4名の芝居。セリフのある構成
- 照明部・録音部が入る(=夜のシーン、逆光、雨のシーンが成立する)
- 15秒・30秒・縦型の複数バリエーション納品
FILMOQのTVCM制作が150万円〜、WebCMが50万〜300万円としているのは、この境目が理由です。150万円は「ロケ撮影を伴うCMが成立する最低ライン」です。
4. 300万円:選択肢が2つ以上になる
300万円を超えると、初めて「比べる」ができます。
150万円では、企画は1案に絞ってそこへ全部を投じます。外れたら終わりです。300万円あると、ロケーションを2箇所から選ぶ、キャストをオーディションで比べる、カットを多めに押さえて編集で選ぶ、といったことができます。失敗の確率が下がるのが、この予算帯の本質です。
できるようになること
- 撮影1〜2日、複数ロケーション
- オーディションによるキャスティング
- 美術の部分造作(小道具の製作、部屋の一部を作る)
- 特殊機材(クレーン、ジンバル、ハイスピードカメラ、ドローン)
- 縦型ショートドラマなら、複数話の同時撮影
参考までに、縦型ショートドラマは2〜3話で100万円〜が目安です。1日に複数話をまとめて撮ることで、1話あたりの単価が下がります。本数が多いほど有利になる、数少ないフォーマットです。
5. 500万円:「作る」ができるようになる
500万円は、存在しない画を作れるようになる境目です。
公開されている業界資料でも、テレビCMの標準的な制作費は100万〜500万円、ハイクオリティなものは500万円以上・制作期間3か月以上とされています。この「以上/未満」の線が、セットを建てるかどうかとほぼ重なります。
できるようになること
- スタジオにセットを建て込む
- オリジナル楽曲の制作(BGM制作の相場は30万〜100万円)
- CG・VFXの本格的な使用
- 準主役級のキャスティング
- 2〜3日の撮影、天候による予備日の確保
予備日が取れるかどうかは、見た目以上に大きい差です。屋外撮影で雨が降ったとき、予備日がなければ強行するか、中止して全部やり直すかの二択になります。500万円の予算は、この保険を買えます。
6. 1,000万円〜:主役がタレントと媒体になる
この予算帯では、制作費の内訳そのものが変わります。映像を作る費用よりも、出演者の契約と放映の枠のほうが大きくなります。
タレント起用費は数十万円から数千万円まで開きます。人気タレントの場合、1クール(3か月)契約で数千万円以上になる例もあります。「CMに1,000万円かけた」と言うとき、その大半がタレント費であることは珍しくありません。
発注側が確認すべきなのは、金額そのものより契約期間と使用範囲です。1年契約が切れた後にWebに残し続けると契約違反になります。詳しくはCM制作ページの「発注する前に、知っておくこと」にまとめています。
7. 予算別・どこに頼むべきか
予算帯ごとに、機能する会社のタイプが違います。規模で選ぶのではなく、その予算がその会社にとって「主戦場かどうか」で選んでください。大手に50万円の案件を持ち込んでも、優先度が上がりません。逆に少人数の会社に1,000万円規模のタレント案件を持ち込むと、契約実務で止まります。
| 予算 | 向いている会社のタイプ | 代表例 | 選ぶときの確認点 |
|---|---|---|---|
| 〜100万円 | 料金プランを公開している動画制作会社、運用型・量産型に強い会社 | Crevo、VIDWEB、ボーダーレス、Lumii | 撮影が含まれるか、それとも素材編集のみか |
| 100〜500万円 | 企画・演出を自社で持つ中規模プロダクション | FILMOQ、LOCUS、プルークス、CINEMATO | 誰が演出するか。営業と演出が同一人物か別か |
| 500〜1,000万円 | 大型案件の座組みを組める制作会社 | ギークピクチュアズ、たきコーポレーション、太陽企画 | 過去の同規模実績と、担当プロデューサーの稼働 |
| 1,000万円〜 | 大手プロダクション、代理店系 | AOI Pro.、東北新社、電通クリエイティブピクチャーズ、博報堂プロダクツ | タレント契約・媒体交渉をどこまで含むか |
各社の料金体系は公表されているものと個別見積もりのものがあります。分類は2026年9月時点の各社の公開情報にもとづく目安です。詳しくはCM制作会社おすすめ16選で個別に解説しています。
相見積もりを取るときの注意
大手が料金を公表しないのは、仕様が案件ごとに違いすぎるからです。だからこそ条件を揃えないと、比較したことになりません。同じ絵コンテ・同じ尺・同じ納品本数・同じ使用期間で出してもらってください。片方が「撮影1日・納品1本」、もう片方が「撮影1日・納品4本・縦型込み」では、金額の差は品質の差ではありません。
8. 予算を増やさずにクオリティを上げる5つの方法
の現場で、実際に効いたものだけを挙げます。
① 場所を減らす
ロケーションが2箇所から1箇所になると、移動と機材の積み降ろしが消えて、撮影できる時間が1.5倍になります。同じ予算で、1つの場所を深く撮ったほうが、2つの場所を浅く撮るより必ず良くなります。
② カメラより照明に置く
機材のグレードを上げるより、照明部の人数と時間を確保するほうが画は変わります。高いカメラで平坦に照らした画より、標準的なカメラで光を作った画のほうが良く見えます。これは例外がほとんどありません。
③ セリフを減らす
15秒CMで音を入れられるのは実質14秒です(CMの開始点と終了点の0.5秒ずつは無音と定められているため)。セリフが多いと、役者は早口になり、芝居が浅くなります。言葉を削ると、演技の質が上がり、編集の自由度も上がります。
④ 納品バリエーションを最初に決める
後から「縦型も欲しい」となると、構図が合わずに撮り直しになります。最初に決めておけば、同じ撮影で縦・横の両方を押さえられます。追加費用はほぼゼロです。
⑤ 決裁者を打ち合わせに出す
これがいちばん効きます。決裁者不在で企画を進めると、後半で根本的な修正が入り、そのぶんの予算が演出ではなく手戻りに消えます。予算の何割かは、意思決定の速さで決まります。
9. ここを削ると、必ず失敗する3つ
① ロケハン
場所を見ずに撮ると、当日に光の向きが想定と逆だったり、音が録れなかったりします。取り返しがつきません。
② 編集の日数
撮影に全部を使って編集を1日に圧縮すると、撮れているのに使えない素材が出ます。編集は「並べる作業」ではなく「選ぶ作業」です。選ぶ時間がないと、最初に思いついた順番のまま納品されます。
③ 予備日または保険
屋外撮影で予備日がないと、雨天時に強行するしかありません。強行した画は、たいてい使えません。
10. 媒体費は別枠。テレビに流す場合の実額
ここまでは制作費の話です。テレビで流す場合は、これとは別に媒体費(電波料)がかかります。
| 放送局 | 15秒1本あたりの目安 |
|---|---|
| 関東キー局 | 30万〜100万円 |
| テレビ東京 | 25万〜50万円 |
| 関東の独立局 | 2.5万〜4万円 |
| 地方局 | 2.5万〜25万円 |
| BS | 5万〜10万円 |
| CS | 1.8万〜3.5万円 |
出典:LISKUL/Lumii。実際の単価は時間帯・番組・出稿量で変動します。
テレビCMでは、制作費より媒体費のほうが大きくなるのが通常です。「テレビCMを300万円で」と言われたとき、それが制作費なのか媒体費込みなのかで、できることは全く変わります。最初の打ち合わせで必ず分けて話してください。
11. よくある質問
CM制作の最低予算はいくらですか
撮影を伴わず既存素材の再編集であれば30万円前後から可能です。撮影を行う場合は50万円が実質的な下限で、ロケ撮影と芝居のあるCMを成立させるには150万円が目安になります。
予算が少ないと、クオリティは必ず落ちますか
落ちるのは「選択肢の数」であって、画のクオリティそのものではありません。場所を1つに絞り、セリフを減らし、照明に予算を置けば、50万円でも見応えのある映像は作れます。失敗しやすいのは、少ない予算で要素を増やそうとしたときです。
見積もりに何が含まれているかを確認する方法は
最低限、撮影日数・スタッフ人数・納品本数(尺のバリエーション)・使用期間・修正回数の上限・二次利用の範囲の6点を聞いてください。この6点が揃っていない見積もりは、他社と比較できません。
制作費と媒体費は、どちらが大きくなりますか
テレビCMの場合は媒体費のほうが大きくなるのが通常です。関東キー局で15秒1本30万〜100万円が目安で、一定の出稿量を確保すると制作費を上回ります。WebCMの場合は、自社チャンネルへの掲載のみなら媒体費ゼロも成立します。
予算が決まっていなくても相談できますか
できます。むしろ予算を先に決めてから相談すると、その金額で作れる範囲に企画が縛られます。実現したいことを先に伝えていただければ、それにいくらかかるか、どこまで削れるかをご提示します。FILMOQでは企画のご提案とお見積りを無料で行っています。
予算を抑えるために、複数社に相見積もりを取るべきですか
取ること自体は問題ありませんが、条件を揃えてください。同じ絵コンテ・同じ尺・同じ納品条件で出さないと、金額の差が品質の差なのか仕様の差なのか判断できません。条件が揃っていない相見積もりは、いちばん安く見せた会社が選ばれるだけになります。
予算から逆算した企画をご提案します。
FILMOQは、映画監督が企画から演出までを担当する映像制作会社です。TVCM・WebCM・縦型ショートドラマ・ブランドムービーまでの実績があります。予算が未定の段階からご相談いただけます。企画のご提案とお見積りは無料です。
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